人前で食べるのが怖い。会食恐怖症とは何か？

誰にも言えない苦しさの正体

「友人との食事が苦痛…」
「誰かと一緒に食べようとすると、喉がつかえて食べられない」
「外食の予定があると、何日も前から憂うつになる」

もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、それは「会食恐怖症（かいしょくきょうふしょう）」という心の症状かもしれません。

会食恐怖症は、文字通り「誰かと一緒に食事をすること」に対して強い不安や緊張を感じる状態です。
特に日本では、「食べる＝人との関係を築く」場面とされることが多く、避けることが難しい場面でもあります。

しかしこの症状は、単なるわがままや内向的な性格のせいではありません。
多くの場合、その背景には「見られることへの恐怖」「失敗への不安」「過去の体験」が存在します。

症状のあらわれ方と、よくある誤解

会食恐怖症の人は、以下のような場面で強い不安を感じやすくなります。

• 会社の飲み会やランチ会
• 恋人や異性との食事
• 結婚式・法事・親戚の集まり
• 学校や職場の集団生活

症状としては

• 喉が詰まる
• 吐き気がする
• 動悸や手汗が止まらない
• 手が震える
• 身体が強張る
• 食べるふりをしてごまかす
• 食べ終わるまでひたすら黙っている

といったものが見られます。

これらの反応に対して周囲から「もっとリラックスして」「気にしすぎ」と言われることも多く、本人の中には「自分はおかしいのではないか」「社交性がない」と自己否定感を抱えてしまう人も少なくありません。

なぜ食事の場が怖いのか？ 〜その心理的メカニズム〜

会食恐怖症には、いくつかの心理的要因が関わっています。

▪️ 見られている不安（注目恐怖）

「ちゃんと食べているか見られている気がする」
「食べ方を変だと思われるのではないか」

という不安です。
特に内向的・繊細な人は「他人の目」に敏感で、このタイプの恐怖を強く感じやすくなります。
一緒に食べている人に自分の不安や緊張を知られたくないといった感情もあります。

▪️ 完璧主義・失敗回避傾向

「ちゃんと食べられなかったら恥ずかしい」
「吐き気を催して途中退席したらどうしよう」
という“最悪のシナリオ”を避けようとする防衛反応が出てきます。

男性の場合はたくさん食べて当たり前のような価値観に苦しむことも。
また、食べるのが遅かったりすると、周りに合わせて早く食べないとという心理的なストレスがかかります。

▪️ 過去のトラウマや恥ずかしい体験

かつて食事中に具合が悪くなった経験や、「ちゃんと食べなさい！」と怒られた記憶がある人は、それが無意識に影響し、再発を恐れるようになります。

▪️ 自律神経の過敏

会食の場を「ストレス」と認識することで、自律神経が乱れ、喉や胃腸の機能が一時的に低下します。
すると、食べられない→また不安になる→さらに食べられなくなる、という悪循環に陥るのです。

実際の事例──30代男性会社員のケース

Yさん（35歳・会社員）は、学生時代から食事の場が苦手でした。

「学食で友達と食べるとき、妙に緊張して食が進まなかったんです。でも、当時は“変な奴”と思われたくなくて、必死に隠していました」

社会人になってからは、飲み会や上司とのランチで胃痛や吐き気を感じるようになり、医者にも通いました。
しかし身体的な異常は見つからず、「もしかしたら心の問題では？」と気づいたそうです。

Yさんは現在、カウンセリングと段階的なトレーニングによって「自分のペースで食事ができるようになること」を目指しています。

「少しずつ“無理しなくていい自分”を受け入れてきた気がします。誰かと一緒にいられるだけでも、十分だなって思えるようになりました」

このように、会食恐怖症は隠れたまま苦しんでいる人が多い一方、少しずつ改善できる症状でもあります。

対処法と回復への道

会食恐怖症の克服には、「段階的に慣れること」と「認知の修正」がカギになります。

▪️ 回避しすぎない

完全に避け続けると、恐怖がさらに強まります。
最初は「信頼できる相手と」「時間制限を設けて」「軽食から」など、負荷の少ない場面から慣らしていくことが大切です。

▪️ 呼吸法とリラクゼーション

呼吸が浅くなると緊張は高まります。
会食の前には腹式呼吸やストレッチ、リラックス音楽などを取り入れて、自律神経を整えましょう。

▪️ リフレーミングの活用

「食べられない自分はダメだ」ではなく、「食べられなくてもいい」「会話ができるだけで十分」など、自分を責める視点から解放する“新しい見方”が重要です。

▪️ 誰かに打ち明けてみる

これはハードルが高いと思うかもしれませんが、打ち明けるとかなり気が楽になります。
「自分だけがおかしい」と感じやすい症状ですが、実は隠れて悩んでいる人は多くいます。
信頼できる友人や専門家、会食恐怖症の人たちの集まりの場において打ち明けることで、自分を受け入れるきっかけにもなります。

大切なのは「自分の感覚を否定しない」こと

「他人と食べることが怖い」という感覚そのものが、あなたの心の中でリアルな現実であることを、まずは自分自身が認めてあげてください。

あなたがこの不安だったり緊張を隠そうとすればするほど苦しくなります。

まずは少しずつでも受け入れることから始めてみましょう。

克服とは、不安を０にして“誰とでも会食できるようになること”ではなく、
“自分のペースで、安心できる環境を選べるようになること”です。

「今日は無理せず帰ろう」「飲み会に参加だけして、食べなくてもいい」
といった選択ができたとき、それはもう十分な前進です。